http://kashima.kurofuku.com/%E8%90%A9%E6%9D%BE/%E7%89%B9%E5%88%A5%E3%81%A7%E3%81%AF%E3%81%AA%E3%81%84%E7%89%B9%E5%88%A5%E6%89%B1%E3%81%84『特別ではない特別扱い』
『萩松深夜のワンドロワンライ一本勝負』様に参加。
お題「特別」(第68回 2024年1月20日出題)
K学萩松と降谷。ハピエン。
「萩原君、来週末空いてる?」
授業の始まる数分前、女子二人が萩原に声を掛けた。松田とノートを読み合わせていた萩原は人好きされる笑顔を向ける。
「来週末? 空いてたと思うけど何か用?」
「あのね、村西教場のコに誘われてるんだけど……」
「おっ、合コン? いいぜ、行く行く! 陣平ちゃんと降谷ちゃん、諸伏ちゃん、班長も行くよな?」
「やったー助かる! あとで集合場所教えるね!」
明確な答えを出す前に言い切られ、半強制的に僕の予定が埋まった。「カノジョ持ちに声掛けんなよ」と苦笑する班長に、「美味しい食事処だといいよね」とヒロがのほほんと微笑む。松田は特に反応なくノートと教科書を黙読していた。
「萩原は本当に女子に優しいな」
「そオ? 予定あったら断るし、そもそも女の子に優しくするのは特別なことじゃないっしょ」
本当に何事もないように言ってのける。萩原にかかれば男女の差別どころか人種の差別もこの世からなくなるんじゃないろうか。僕の発言そのものが恥ずかしくなる程自然と返されてしまい、細く嘆息した。
ふと松田が顔を萩原に向けた。スイッと目線を流して何か考える素振りをし、萩原を見上げる角度で僅かに唇を突き出す。ドラマでヒロインがやるキス待ち顔に見えた。
萩原が顎に手を添える。ドキリと外野の僕が心臓を鳴らすと、ポケットからリップクリームを取り出して、すりすりと松田の唇に塗ってあげた。その間十秒もない。色づくタイプではないと思うが、ほんのり血色がよくなった気がした。
「塗り残しない?」
「ない。サンキュ」
むにむにと唇を上下左右に揉み込む松田に、萩原はパチリと蓋を閉めてリップクリームをポケットに戻す。一連の動作を無言で見てしまった僕に、萩原が「どしたの」と笑った。
「俺が陣平ちゃんにリップ塗ることだって特別なことじゃないんだよ」
そういうものか? そういうものか。
「美味い飯屋じゃなかったら承知しねぇからな」
「いまいちだったら二次会行かないでみんなでラーメン屋行こ」
艷めく唇で合コンの話をする松田も至って通常運転だった。喉が渇いたから水を飲む。きっとそれと同じなのだ。
鬼塚教官がいらっしゃって深く思考することは叶わなかったが、萩原と松田の距離感に抱く感情はどこか羨望に似ていた。
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