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好きなものを好きな分だけ

成人済腐。萩松/降新・安コ。ハピエン大好きなメリバ脳。字をもそもそ書きます。140字に要約する能力と検索避け文字列がしんどいため長文用にブログ作りました(一括metaタグ入れてあります)

『夜鳴きの唇』

『萩松深夜のワンドロワンライ一本勝負』様に参加。
お題「勘違い」(第72回 2024年2月17日出題)
半同棲DD萩松。ハピエン。

 陣平ちゃんが唇を突き出している。可愛いなと思いながら、しゃがんでキスをした。
「……オイ」
 離れると想像と違って陣平ちゃんは照れた甘い空気を纏っていなかった。完全に嫌がっているわけではない、違うそうじゃないという顔。
「あれ? キス待ちじゃなかった?」
「違ぇ。口笛の練習してたんだよ」
「ヤダ、研二君ったら勘違い。ごめんね?」
 手先が器用でも口も器用であるとは限らない。食べる時よく口元を汚す陣平ちゃんを今日も拭いてやったなと思い出す。今夜はお泊まりデートである、というか半同棲に等しい。一緒に風呂に入って、あとから上がった陣平ちゃんの髪を乾かしてスキンケアをして、ドライヤーなどを所定の位置に戻しての出来事だった。
 すー、と唇から空気が通り抜ける音がする。
 なぜ口笛の練習を始めたのかは、恐らく夕飯時に観ていたスパイ映画の影響だろう。主人公が城への報せに手紙を書き、鳥を呼ぶ時に口笛を吹いた。やってきた鳥の足に手紙を結わえ、旅立たせる。羽ばたいた鳥は遠い土地の城に飛び、王様の側近の口笛に呼ばれて腕に降り立つ。褒美の餌を貰った鳥は飛び立つことなくそこで待機し、手紙を読んだ側近がすぐに王様へ進言し、返事の手紙を鳥に託す。領地の命運を負った鳥は主人公の元へ辿り着き、物語はクライマックスへと向かう。見事祖国を勝利に導く手助けをした主人公は、映画の最後に口笛を吹いて鳥を呼び、感謝の気持ちを込めて餌を与えた。賢い鳥に陣平ちゃんと共に感心の声を上げたものだ。
「どうやって吹くんだ?」
 尋ねられたのでお手本にとピュウと一度吹いてみる。
 ふー。ふすー。ぴゅすー。
 俺の真似をして口笛を吹くべく陣平ちゃんは練習に勤しむ。上に突き出したり下に突き出したり、少しずつ唇の形を変えている顔は真剣そのものだったが、この調子では鳥を呼ぶのは難しそうだ。ずっと見ていたかったがそれだと集中できないだろうから、ちょっと離れたところで雑誌に目を落とす。特に苦もなく吹ける人間としてはなぜ吹けないのかわからない。コツを聞かれてもうまく答えられる自信はないなと時々横目で様子を見る。うん、やっぱりマツダの車はカッコイイし、陣平ちゃんは可愛い。
 ピュー。
 確固たる口笛が聞こえて、陣平ちゃんと目が合った。ぱああと顔を輝かせて、もう一度鳴らそうと陣平ちゃんは口をすぼませる。
 ちゅ。
 口笛の空気ごと唇を頂く。
「……オイコラ」
「……だって夜に口笛鳴らしたら泥棒が仲間の合図だって勘違いして何か盗みに来ちゃうぜ?」
「ンな迷信今時通じるかってんだ。萩だって一回吹いてるし……あーもう」
 至近距離で言い訳をする俺の唇に、ふにふにの唇が重なる。唇をちょっと尖らせ、目を閉じて角度をつけて、俺の背に手を添える体勢に、俺は喜び勇んでぐぐっと体重を載せて、陣平ちゃんの項に手を回して反対の手で腰を引き寄せた。リップ音を軽く立てながら、くっついては離れ、離れてはくっつきを繰り返す。日々リップクリームを塗ってあげているから陣平ちゃんの唇は荒れ知らずだ。今は口笛の練習をしていた分少し乾いているが、キスした時の感触は極上だ。
 しばらくバードキスで唇を堪能し、お互いの顔を見る。ちょっと後ろめたいことをした意識があるのか、陣平ちゃんは照れつつも甘いだけの空気ではなかった。
「……待たせて悪かったよ」
「俺も待てなくてごめんな」
 じゃお互い様ってことで、と、額をぐりぐり合わせてじゃれ合う。先に布団の中に入り、掛け布団を上げて「おいでー」と笑えば「お邪魔シマース」と陣平ちゃんも潜り込む。手だけ動かしてリモコンで部屋の灯りを消す。ふわふわの髪からは俺が選んだシャンプーの香りがした。
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プロフィール

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加島
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性別:
女性
自己紹介:
・成人済腐
・萩松/降新・安コ
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