忍者ブログ

好きなものを好きな分だけ

成人済腐。萩松/降新・安コ。ハピエン大好きなメリバ脳。字をもそもそ書きます。140字に要約する能力と検索避け文字列がしんどいため長文用にブログ作りました(一括metaタグ入れてあります)

『もっと言って可愛いって言って』

『萩松深夜のワンドロワンライ一本勝負』様(X)よりお題をお借りました。
お題「喧嘩」(第75回 2024年3月9日出題)
K学萩松とK学メンバーとモブ(名有り)。ハピエン。


「なあ若林……ちょっとノート見せてくれねぇか」
「へっ!? はっ!? ま、松田?」
「何だよ……俺のお願い、聞いてくれねぇのか……?」
「い、いえ、どうぞどうぞ、好きなだけどうぞ」
 挙動不審となる若林からノートを受け取ると、松田はパラパラと最後のページを捲り、自身のノートと見比べる。ノートを貸した若林は滅多に声を掛けられたことのない人間からのアクションに驚いているのか、はたまたふっと笑んだ松田の表情にときめいているのか、ぼーっと松田を見ている。恐らく後者だろう。松田は整った顔立ちをしている。それを松田自身が積極的に活かす場面はあまり見たことがなかったが、眼差しに好意を乗せ、声色を湿らせるとああして相手をドギマギさせることができるらしい。
 僕の隣ではギリギリギリギリと歯ぎしりの音がする。ちらちらヒロが僕越しに萩原の歯を心配していた。
 数秒無言の時間を置き、松田はサラサラと自身のノートに追記すると、ノートを閉じた。
「サンキュー、助かったぜ」
「ど、どういたしまして」
「ところで若林」
「はい!?」
「丁寧な字だな。予習も復習もしていて綺麗なノートで見やすかった。若林に声掛けて正解だった……武道もこなして、若林は格好いいな。お前みたいな真面目な人間が警察官になるんなら同期として誇らしいぜ」
「は、はわ……」
 ノートを両手で持ってぼんやり赤くなる若林に、追い討ちで松田が微笑んだ。事情を知っている僕、ヒロ、班長はじっと萩原を見つめる。あれ誤解生んで若林に申し訳ない気がするぞ、なんとかしなくていいのか萩原。肝心の萩原は「あぁー……」と片手で顔を覆い、「俺の陣平ちゃんが格好いい……」と天を仰いでいた。
「いいの、あれ」
「松田って人たらしの才能あったんだな」
「萩原の隣にいつもいるんだし口説き文句も身についていて不思議じゃないが……いい加減仲直りしたらどうだ」
「俺謝ったもん。でも陣平ちゃんが許してくれないんだもん」
「だもん、って……。あ……」
 ツカツカ足音を立てて松田が団子になっている僕たちに近寄ってきた。コンとノートの角で萩原の頭を突いた。
「どうだ萩」
「……ハイ」
「少しは俺の気持ちわかったか」
「はい、もう言いません」
「よし。もう『可愛い』って俺以外に言うなよ」
「はい、陣平ちゃんも俺以外に『格好いい』って言わないで」
 喧嘩の発端は昨晩に遡る。
 僕たち五人は飲みに繰り出していた。相変わらず萩原の隣に松田が座り、酒を注いだりツマミを食べたり手を繋いだり、いつもの光景だった。他の教場の人間はいなかったが、初対面の女の酔客が萩原に声を掛けるのもよく見る光景だった。
 程よく飲んで食べ、ほろ酔いの帰り道、僕とヒロの前を歩く萩原が『可愛いねぇ』と甘い声を出した。肩に腕を巻かれていた松田はそれに反応するように萩原の肩にうんと顔を寄せたが、萩原の目線は松田に向いていない。不審に思ったらしい松田が萩原の目線を追うと、そこには散歩中の犬がいた。
『おっ、しっぽ振ってくれんのー?』
『……萩の馬鹿野郎ォ!』
 無防備に自分へ巻かれた腕をそのまま掴んで背負い投げして、アスファルトへ萩原を捨ておいて松田は走り去っていった。『ま、松田ぁ!』とヒロは松田を追いかけ、『大丈夫か!?』と酔っ払った身でちゃんと受身が取れたかどうか班長は萩原を心配し、僕は痴話喧嘩に巻き込まれた散歩中の犬と飼い主に謝罪した。結局、酔った身で走ったせいもあって松田はグダグダと体調を崩し、萩原に会うのを拒んだ。『まあ声を掛けてきた女にヤキモチ焼く松田を可愛い可愛いと褒め殺すのがいつものパターンだったんだろう、それが犬とあっちゃあな。そもそも萩原の可愛いは松田の専用の言葉だったのかもしれん』と班長は溜息を吐いていた。松田の感情への理解は、可愛いと言われて喜ぶ男もいる、というよりは、恋人に可愛いと言われるのが嬉しい、というのが正確なところなのだろう。そのいつもの囁きが自分ではなく犬に向かって、酒の力で沸点が低くなっていて思わずぶん投げたと。
 そして今に至る。
「仲直りは済んだか? とりあえず若林に謝ってこい」
 松田を若林の元に追い立てると、萩原も一緒に歩み寄った。二三、言葉を交わして「はあ!?」と若林が大声を上げた。
「つまり俺はチワワと同じってことか!?」
「そうは言ってねぇよ、若林は格好いい系だろ」
「なっ! 陣平ちゃん、俺以外に『格好いい』って言わないって言ったのに!」
「若林は格好いい系、萩は格好いい。全然違ぇだろ」
「陣平ちゃん……!」
「チワワ……」
 騒ぐ三人に班長がとりなすために近寄っていく。もうあまり関わりたくないし、放っておいても大丈夫だと思う、この状況を表したのが「夫婦喧嘩は犬も食わない」という諺なのだろう。まったく、先人はよくいったものだ。どうせ落ち着いた頃には萩原が松田に可愛い可愛いと連呼しているのだろうから。
PR

コメント

現在、新しいコメントを受け付けない設定になっています。

プロフィール

HN:
加島
Webサイト:
性別:
女性
自己紹介:
・成人済腐
・萩松/降新・安コ
・ハピエン大好きなメリバ脳
・字をもそもそ書きます
・140字に要約する能力と検索避け文字列がしんどいため長文用にブログ作りました(一括metaタグ入れてあります)

P R