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好きなものを好きな分だけ

成人済腐。萩松/降新・安コ。ハピエン大好きなメリバ脳。字をもそもそ書きます。140字に要約する能力と検索避け文字列がしんどいため長文用にブログ作りました(一括metaタグ入れてあります)

『イブに食べ頃』

『萩松深夜のワンドロワンライ一本勝負』様に参加。
お題「サンタクロース」(第64回 2023年12月23日出題)
DD萩松とモブたち、ハピエン。
サンタ衣装はソシャゲのコナンパズルのガチャ衣装より。

 十二月二十四日、午後五時、十五分前。
「チース」
「萩原です、今日はよろしくお願いします!」
 寒空の下、バックヤードから運び出したであろう折りたたみテーブル分、店の敷地内に即席の販売コーナーを作り、チキンとケーキを販売している昼間のシフトの女の子ふたりに挨拶をする。
「お疲れ様です!」
「オーナー、萩原さん来ました!」
「ああ、萩原君待ってたよ!」
 きゃっきゃと女の子たちが店内に声をかけ、俺は満面の笑みでオーナーに迎えられてバックヤードに案内される。陣平ちゃんは他の同僚にチースと挨拶をしながらコンビニ内をスタスタ歩く。「これ萩原君の分。新品だから」と赤い衣装を手渡され、お礼を言って、先に着替え始めた陣平ちゃんに倣い、俺も着替え始める。
「陣平ちゃん似合ってる」
 黒シャツにループタイを締めながら、赤シャツに黒ベストのボタンを留めている陣平ちゃんに言うと、ロング丈のサンタ服を広げながらニッと笑った。
「萩が見繕ったんだから似合うに決まってんだろ」
「原石がいいんだからそりゃ磨くでしょ」
 俺もサンタ服を着て帽子を被り、陣平ちゃんから「似合ってる」とお墨付きをもらって仕事に繰り出す。外でまたひとつチキンが売れたタイミングで、女の子たちと交代する。
 先月の今頃にいつも通り陣平ちゃんのバイト先のコンビニへ迎えに行ったところ、「イブか本番、外で販売してくれないか!?」とオーナーに呼び止められ、陣平ちゃんと一緒に過ごせるならという条件でイブに手伝うことになった。時給は大変弾んでもらえるそうだし、恋人の陣平ちゃんは「萩と一緒なら」と嬉しそうにしていたのでこれでいい。まだまだ俺たちは『ちょっと背伸びして素敵なディナーを』というには若すぎる。夜十時にはバイトを切り上げて、売っていたチキンとケーキを手土産に陣平ちゃんちにお泊まりの予定だ。ちなみに俺のバイト先のガソリンスタンドはクリスマスは関係なく、特にシフトは入れていなかったため影響はない。
「チキン、ケーキはいかがですかー!」
 店内で温めたチキンをホットショーケースにテキパキ入れていく陣平ちゃんを横目に、往来へ呼びかける。イブのチキンやケーキなんて我が家では既に予約済みだったから当日コンビニで買う人なんているのかと思っていたが、あれよあれよと人が寄ってきて驚いた。自分の顔の整い具合は把握しているし、隣の陣平ちゃんの端正っぷりも理解しているが、それにしても客寄せパンダの効能だけではないと思う。ここまで需要があるとは思わなかった。
「いらっしゃいませ!」
「よっ、盛況だねぇ。『先約がある』ってクリパの誘い蹴っただけはある! チキン二本にケーキひとつお願い」
 おや、と思いよくよくお客さんの顔を見ると、高校からの友人の安藤がにこにこしていた。隣には大学で知り合った井上もいる。
「ふたりとも来てくれたんだ、サンキュー! ケーキはひとりワンホールをおすすめするぜ?」
「俺はもうケーキ屋で予約済みだから」
「だよなぁ、チキンだけでも嬉しいぜ」
 特に悪びれた様子もなく井上は控えめに笑う。
「なあなあ、萩原ももちろんだけどさ、松田も似合ってんなーサンタクロース! めっちゃオシャレじゃん、これ支給?」
「いや、サンタ服だけ店の借り物。あとは萩も俺も萩の私服」
「マジか、サンタ服をオシャレにする私服持ってるのすごくね!? なあイケメンサンタさん、プレゼントねぇの?」
「フォフォフォ、チキン二本どうぞー!」
 店員スマイルで包んだチキンを安藤に渡す陣平ちゃんに続き、「ケーキの受け取りとお支払いは店内でお願いします」と井上に注文内容の紙を渡して意識を店内に向けさせる。要冷蔵のケーキは真冬とはいえ外に置いておくことはできないし、ここで店内に案内することで他の商品の購買も狙っている。
 わざわざ来てくれた安藤と井上ともっと話がしたかったが、後ろに別のお客さんが並んでいるため早々に内輪ノリは切り上げた。
 しばらく接客に精を出し、ふと誰もいなくなった頃、「なあ」と陣平ちゃんが白い息を吐きながら呟いた。
「今日泊まり来るよな?」
「うん、そういう約束だし」
「……プレゼント、あるから」
「やった! 俺も用意してるぜ! いつもじゃ買わないようなちょっと高めの輸入菓子! 楽しみだなー」
 はしゃぐ俺に陣平ちゃんはこちらを見ないで正面を向いたままもごもご続ける。
「その……プレゼント、一応今日が食べ頃なんだ。明日も明後日もいつだって食べられるけど、うん……」
 サンタの衣装と同化するんじゃないかって位、陣平ちゃんは頬、耳、項を赤くする。
「……それって」
「じゃなー、萩原サンタに松田サンタ! 来年はみんなでクリパしような!」
 元気いっぱいに安藤が店から出てくる。びくっと一瞬肩を跳ねさせたが、陣平ちゃんはすぐ「ありがとうございましたー」と頭を下げた。
「……先約があるならクリパは無理しなくていいから」
「お気遣いありがと、メリークリスマス!」
 まだ今年のクリスマスもまだなのに、来年の心配もしてくれる井上に軽く頭を下げ、俺たちは真っ赤なまま学友二名を見送る。
「すみません、チキン三つ」
「い、いらっしゃいませ!」
 俺はサンタからの贈り物に心躍らせ、ピシッと店員スマイルを作るのにしばらく苦労した。
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・成人済腐
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