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好きなものを好きな分だけ

成人済腐。萩松/降新・安コ。ハピエン大好きなメリバ脳。字をもそもそ書きます。140字に要約する能力と検索避け文字列がしんどいため長文用にブログ作りました(一括metaタグ入れてあります)

『年忘れのミステリーサークル』

『萩松深夜のワンドロワンライ一本勝負』様に参加。
お題「忘年会」(第63回 2023年12月9日出題)
DD萩松とモブ先輩、ハピエン。

「それではミステリーサークルの未来を祝しまして! 今年もお疲れ様でした! カンパーイ!」
 まずは生、未成年者はソフトドリンク。十を超えるグラスが上がり、次に隣の者同士で軽く合わさる。
「今年のMVP萩原君! ささ、一杯!」
 音頭をとって真っ先に飛んできた部長は、始まったばかりでまだ一口烏龍茶を飲んだだけの萩原に瓶ビールを傾けようとする。
「ぶちょー、俺未成年でーす」
「こういうのは気持ちだ。ほら左手も見ろ、烏龍茶も持ってきてる。君ほどの人間なら合コン慣れはしてるだろうが、社会人との飲みニケーションはまだ経験は浅いだろう? 知っておいて損はない、はい、グラスは両手で持って『お疲れ様です』って言え、そうすりゃ年配者は気を良くして今後も可愛がってくれる!」
 ペラペラと語り始める部長に萩原は「ウッス! お疲れ様です! ありがとうございます!」と烏龍茶を注いでもらう。隣に座る松田は溜め息を吐く。実家が自営業だった萩原は親が自宅に客を招いて盃を交わす様子を幼い頃から見ていたし、倒産してからはバイトをしてその忘年会やら新年会やらに参加したこともあるため、飲みニケーションに疎い人間ではない。それをわざわざ言わないで部長の酒……烏龍茶を頂く萩原に、果たしてこのミステリーサークル、もといミステリー研究会の部長は何か教えるコミュニケーション術はあるのだろうか。
「君のおかげで女子が増えた! 結果的に部員数も俺と副部長だけの状態から両手では足りない数まで増え、めでたくミステリー研究同好会はミステリーサークルに昇格した! 大学から補助金も出て、旅行にも行けたしこうして忘年会も開けた! いやーありがとう萩原君!」
「当初から半分以下に減ってますけどお役に立てたなら何よりです」
「部長、さっきから思ってたんスけど、俺らがミステリーそのものになってますよ」
 人に好かれる笑顔を向ける萩原の隣で松田がツッコむと、視線は向けずにテーブルの下で萩原が松田の手を突っついた。
 ミステリー研究同好会、現ミステリー研究会は、名前からするとオカルトじみたサークルだが、実際はミステリー小説や漫画、映画を観る鑑賞型サークルだ。流行り廃りで部員数が枯渇したり豊富になったりして、同好会になったり大学公認サークルになったり忙しいようだが、部室は一応継続して残してもらっているらしく、半世紀以上前の本から最新の本までみっちりミステリーで埋められた書棚がウリだ。大学の図書館には娯楽小説はないため、先代の部員たちの寄付から成り立っているそれに、松田が釣られた。分解魔でボクシングをこなす身だが、彼は読書家でもある。楽しみながら知識を増やすことができ、履歴書にも堂々と書ける『読書』はメリットしかない趣味なのだ。区立の図書館に行かず大学内で本が読めるのなら楽なものはない。活動内容は、週一で書棚の本や持ち込んだ本を好き好きに読むこと、月に一度、二三の作品についての討論会に参加する。自分の意見を他人に伝わるよう言語化し、発表して、他人の意見を蔑ろにせず傾聴し、書面にまとめあげる。一連の動きは今後社会で生きていくのに役立つスキルだろう。分野がミステリーやサスペンスに限られているため、暇な授業のようにあくびも出にくい。部員の希望が多ければ変則的に映画館に足を運ぶこともある。夏の長期休暇には作品の舞台となった土地へ泊まりがけで赴く、いわゆる聖地巡礼も行われる。活動日数が少ないため勉学やバイト、その他自分の時間に影響がないのも魅力だった。
 春、新入生勧誘の手書きの看板を持つ部長の呼びかけに、松田はさくっと入部を希望した。そして当たり前のようについてきた萩原と、萩原目当てで入部した女子たちの増員、その女子目当てに入部した男子、あと松田ガチ恋勢数名の入部で、ミステリー研究同好会はミステリー研究会へ数年ぶりに格上げされたのである。
「俺も部長には感謝してますよ」
「お? 何に?」
「陣平ちゃんが好きなものを好きだと言える環境をくださったこと。この子、自由に生きてるけど素直じゃないときあるから」
 ね、と萩原は松田に笑いかける。唐揚げを食べながら松田も適当に頷く。萩原が何について語っているのかは萩原にしかわからない。父親の事件によるごたごたに関することなのか、日常的な何某なのか、はたまた萩原への恋愛感情のことなのか。今は特段困ったことはないため、話題の当事者となってものんびりしたものだ。
「そうかい? 俺から見たら松田君はすっごく素直だと思うよ」
「本当ですか、よかったね陣平ちゃん」
「ひとりが好きそうな割に萩原君がいるとよくくっついてるよな」
「? 俺がくっつくんじゃなくて?」
 部長はふたりの間に視線を落とす。松田の左手は萩原の右手を捕らえていて、くるりくるりと指遊びに興じていた。萩原が部長からの烏龍茶を飲み、部長へビールを注いで手が空いて松田に軽くツッコんだときから、ずっとそうだった。
「何だ、萩原君、自覚あったのか。そう、萩原君の執着は表によく出るけど、松田君の執着も相当だぞ。一応言っとくけど、人前で指絡めるのは普通じゃないからな!」
 そう言われて動きを止めた松田は、無言で繋がる手を見つめる。萩原は引き継ぐように松田の掌に線や円を描きだして、「まるでミステリーサークルだな」と部長は見下ろしながら呟く。松田はくすぐったそうに身を捩り、いたずらな指をギュッと掴むと、神妙な面持ちで部長を見た。
「……普通だと思ってました」
「だろうな、その様子だと。ま、松田君が入ったおかげで萩原も入ったんだ、君たちの仲の良さは歓迎するよ、ミス研の宝だ! 好きに絡むといい! 君たちの仲の良さを見て去る女子も多かったが笑い話さ! さあ、松田君も飲んでくれ!」
「サーセン、俺も未成年ッス」
 失敬失敬と傾けられた烏龍茶の瓶に、松田もグラスを持ち上げる。「両手で持つんだ」と笑われ解いた手には、萩原の『すき』という文字が指文字で描かれていた。
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・成人済腐
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