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好きなものを好きな分だけ

成人済腐。萩松/降新・安コ。ハピエン大好きなメリバ脳。字をもそもそ書きます。140字に要約する能力と検索避け文字列がしんどいため長文用にブログ作りました(一括metaタグ入れてあります)

『一本であなたをその気にさせる』

ポッキイの日記念(遅刻)、萩松。
K学時代、班長視点です。

「班長、今彼女いねぇよな?」
 じっと俺の手元を見たあと、きょとんとした顔で松田が問う。
「……んん??」
 俺と共に、降谷や諸伏が首を傾げた。
 時は休日、場所は降谷と諸伏の部屋。男五人、おやつタイムに入ろうとしていたところだ。
「班長、カノジョと別れてたの?」
「いや? 別れ話なぞしてないが」
「え? だって、それひとりで食うのか?」
 諸伏に問われて否定すると、松田が更にクエスチョンマークを飛ばす。松田が不思議そうに覗き込む俺の持ち物は赤い箱が目印のポッキイだ。
「あー、そゆこと」
 ぴこんと電球を光らせて、萩原が「一本頂戴?」とポッキイをねだる。言われるままポッキイを一本施すと「はい、陣平ちゃん」と咥え、自然な動きで松田の肩を抱いた。
「ダメ!!」
 対する松田は真っ赤になって声を張り上げた。
「……??」
 珍しい。先程と同じく、降谷と諸伏、俺が首を傾げる。
 萩原と松田はつまりそういう関係なんだろうと察せる位、両者共に隠す素振りを見せていなかったため、いわゆるポッキイゲームを仕掛けられて拒絶するとは意外だった。
「いいじゃん一本位」
「ダ、ダメだ、一本でも俺その気になっちまう、さすがに人の部屋では迷惑だろ」
「もしかすると俺が負けるかもよ?」
「……そっか、俺相手にその気にならないのか……」
「いや全力でなるけど。もぉお、しょんぼりしないの」
「なぁ、何の話だ?」
 ぽんぽんぽんぽん手鞠のように転がる萩原と松田の話についていけず、ストップをかける。しょんぼりする松田の頭を撫でる萩原がサクサクとポッキイを食べ、にっこり笑った。
「ポッキイはふたりで両端から食べるものだし、『その気にならなかったら負け』ってルールだよな、陣平ちゃん」
「……違うのか?」
 萩原を見て、降谷、諸伏を見て、俺をじっと見る。
 恐らく萩原に教わったであろう独自のポッキイゲームを、『違う』と言うのは簡単だ。だがそれはふたりの世界のルールを否定しかねない。どうしたものかと降谷と諸伏に助けを求めるべく視線を動かすと、「なるほど、ポッキイゲームはそういうルールだったのか」と降谷がひとり納得していた。前から思っているのだが、この首席殿、萩原と松田を見て『恋人』が何たるか学習している気がするんだが大丈夫だろうか。主にまだ見ぬこいつの未来の恋人が。
「恋人しか食べられないのはメーカーも損失だから、ひとりで食べてもいいと思う。でもポッキイゲームに関しては、恋愛に詳しい萩原がそう言うんだしそれが正解なんだと思うよ。そもそも消費者が自由に始めた遊びなんだから。将来的にメーカーが正しいルール打ち出してきて違ったらそのときまた考えれば?」
 にこ、と諸伏が河童海老煎を開けて一本、松田に差し出した。松田は「サンキュ」と受け取り、ぱくんと食べる。どうやら納得したらしい。萩原は「陣平ちゃんは可愛いねぇ」と自分の持ってきたカントリイマアムを開封し、「ポッキイのお礼」と俺にウインクして差し出した。
「萩原」
「何、諸伏ちゃん」
「オレたちの部屋じゃなければ、お好きにどうぞ」
 やんわりとした念押しに、萩原は「すんまそん」とカントリイマアムを諸伏に献上した。頷いて受け取り、河童海老煎を一本あげたところを見るに諸伏も納得したらしい。
 とりあえずここでそういう気にならなくてよかったと、俺は松田の自制心に感謝して三時のおやつを楽しむことにする。諸伏の言うとおり、そういうのはふたりでやれ。
 そういえば別れたわけじゃない俺の恋人とはポッキイゲームしたことなかったな。『その気にならなかったら負け』の『その気』がどの程度のものなのか知りたくなったが、それは萩原と松田の間のルールだ、俺たちは『折らずに両端から食べ終えれば勝ち』という普通のルールで遊んでみよう。なんやかんや萩原の膝の上に松田を乗せてじゃれあっている様子を見ながら、ポッキイを齧った。
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