http://kashima.kurofuku.com/%E8%90%A9%E6%9D%BE/%E3%81%A6%E3%81%AE%E3%81%B2%E3%82%89%E4%BD%93%E6%B8%A9%E8%A8%88『てのひら体温計』
『萩松深夜のワンドロワンライ一本勝負』様に参加。
お題「体温」
萩松とK学メンバー。ハピエン。
松田の反応が鈍い。
点呼や走り込みも終えたあとの朝食時。今日の味噌汁の具材についてゼロと話しているついでに話を振っても、松田はぼーっと漬物を齧るばかりだ。
「萩原、また松田に無理させたの?」
女子に手を振り松田の隣の席に座る萩原へ視線を投げる。
「ん? してないよ? なぁ、陣平ちゃん」
「……んー……」
眠そうといえば眠そうな声に、萩原が松田の額に手を当てた。松田は箸を置き、むぐむぐと口を動かし続ける。その顔はちょっと気持ちよさそうだ。耳を触り、首を触り、うーんと萩原は小さく首を捻った。
「三十六度九分」
「んー」
「微熱だな、今日頑張れそう?」
ようやく口の中のものを嚥下し、松田はうーんと唸る。さっき気持ちよさそうだったのは体温の高いところに萩原の手が冷たかったからだろうか。オレの右隣のゼロが鯖を一口食べ、飲み込み、味噌汁に口をつける間、たっぷり思案した松田は「大丈夫」と返事をした。
「少し怠いだけだ。飯食って一応薬飲んどく。眠いだけかと思ったが熱あったんだな、俺」
「ちょっとだけね。風邪の引き始めはなんとやらだぜ、悪化し始めたら潔く休めよ」
「おう」
そうして松田は普段より咀嚼回数が多めな朝食を再開し、萩原は「諸伏ちゃん、ありがとね」とお礼を告げる。「疑って悪かったよ」とこちらも軽く謝罪すると、萩原はにこりと笑ってごはんを口に運んだ。
「……いや誰かツッコめよ。額触っただけで熱測れてたまるか」
オレの左隣に座っている班長がツッコんだ。四人の眼差しが一気に班長に向かう。
「いやぁ……萩原なら松田の体温も測れても不思議じゃないかなって……」
「僕も気合い入れれば誰かの体温測れるかもしれないし」
「合ってるかはわかんないぜ、経験と勘だから」
「班長は測れねぇの?」
「測れねぇよ」
しれっと会話に参加する松田に食い気味に否定した。「イテ」と松田が笑ったのを見るに、恐らくテーブルの下で班長が蹴りを入れたか踏んだかしたのだろう。オレだって班長と同じだ、熱が高めかどうかはわかっても、萩原みたいに細かく測れない。それはきっと誰にもわからないだろう。
松田に熱を上げていなければ。
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