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『萩松深夜のワンドロワンライ一本勝負』様よりお題のみお借りしました。
お題「寝言」(第58回 2023年11月4日出題)
K学萩松と降と景、ハピエン。
根の詰めすぎはよくないと、ヒロに誘われ談話室を訪れる。そこには先客がいて、ソファからヒラヒラと手を振られた。
「よっ、降谷ちゃん、諸伏ちゃん」
「やあ萩原。ひとりか?」
「いや? 陣平ちゃんならここにいるぜ」
覗きこめば、萩原に膝枕をしてもらっている松田がいた。茶色の毛布を掛けられ、すやすや眠っている。
「んん……あっ、ダメだ……」
何やらもにょもにょ寝言を言っている。どんな夢を見ているのか。おかしそうに萩原が前髪を撫でる。
「ダメ? 何がダメ?」
「……はいらねぇから……ダメ……」
「いいじゃん、入るよ」
「むりだって……はぎはすぐそういう……こわれちまう……」
はわっ、と隣のヒロが口を抑えた。僕も気まずくなって頬を掻く。これ聞いて大丈夫なやつ? 退室したほうがいいやつ? 萩原と松田の関係を何となく知っている僕らはいたたまれなくなる。
「いいじゃんいいじゃん、入るって」
萩原はからかうように松田で遊ぶ。耳をくすぐられていやいやと首を振った。
「ダメ……プラスはダメ……マイナスもってこい……」
「……………………」
「……プラスとマイナス……?」
ククッと萩原が笑う。
「そうだな、そのネジ山にはマイナスドライバーがぴったりだな」
「……おうよ……」
「何だと思ったのさ、ふたりとも」
忘れていた。松田は分解魔だった。僕は実質的な被害を受けたことがないから認識が甘かった。
むにゃむにゃ気持ちよさそうに夢を見続ける松田に無性に腹が立って、僕はスウと息を吸った。
「起きろ、松田!」
「はっ!?」
萩原が悪いのだ。松田をからかう声や指が幼馴染の域を超えているから。それに応じて妙な吐息を混じらせて答える松田も悪いのだ。
覚醒した松田はキョロキョロと辺りを見渡し、萩原に頭を撫でられどこで何をしていたのか記憶が繋がったのだろう、起こした人間を正確に把握して盛大に眉をひそめた。
「何だよ、ゼロ、鬼公ならテキトーにいなしておけよ!」
「別に呼ばれちゃいないさ」
「じゃあ何で起こした、この野郎!」
「陣平ちゃんの寝言が気に入らないんだってさ」
「ハア? 知らねぇよ、寝言に文句言うなよ!」
毛布を剥ぎ取って僕に掴みかかろうとする松田を萩原が「まあまあ」と毛布に包ませて抑える。ころんとまた膝に寝かせて、ぽんぽんリズムを取った。
「陣平ちゃんは可愛いねぇ」
「何だよ!」
「降谷ちゃんも陣平ちゃんが可愛いんだってさ」
「曲解が過ぎる」
「陣平ちゃんは喧嘩したい? それとも膝枕でお昼寝したい?」
変わらぬリズムは松田の怒気を鎮める効果があったらしく、徐々に息が整っていく。「フン」と鼻を鳴らすと、松田は萩原の腹側に体を向けた。僕に背を向ける体勢だ。
「ゼロ」
苦笑するヒロが僕を促すが、これで引き下がるのも癪なのでテレビをつけて腰を下ろした。
「俺、降谷ちゃんのそういうとこ好き」
「光栄だな」
笑う萩原に笑い返すと、「萩」と松田が毛布から手を伸ばす。「はいはい」と萩原が頭を寄せて、松田の腕を回させる。
テレビを見る僕は、そこからふたりが何をするかは知らない。意地でもここを動くものか。
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